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もしも新しい事業が起きない原因が、現状を打破しようとする起業家精神よりも、いかに現体制にうまくはまり込むかばかりを教えてきた教育制度にあるとしたら、教育制度全般にも手をつけなければならないかもしれない。
そして、これらの改革が実をむすんで新しい産業が生まれ、実際に雇用が逼迫してから、生産性の低い分野の淘汰を進め、人材や資源が新しい分野に移る後押しをするのが順序だろう。 (経営不振の)ゼネコン潰しは、その時にやれば良いのである。
逆に今のように失業率は最悪で、しかも新しいビジネスがなかなか立ち上がってこない時には、それらが立ち上がるまで既存の企業を極力潰さず、雇用と所得を維持する方が、財政赤字の拡大を防ぎ、経済全体の生産性を維持することになるのである。 F大統領の放任主義が失敗して、ルーズベルトの積極財政が大恐慌脱却に成功したのも、まさにここがポイントであった。
もちろん腐った企業は淘汰されなければならない。 ただそれは金融庁がトップダウン式にやるのではなく、現場の民間の判断を尊重すべきである。
現場の人たちが、これはもうだめだと思ったところは淘汰されるべきだし、そうでないところは現場の人たちの判断で再生を図るべきだろう。 なぜ現場かというと、彼らは自分たちの判断がどのくらい連鎖反応を起こすことになるか、よく心得ているからである。

ということは、これらの企業が淘汰されても、それ以上のショックはありえないことになる。 K内閣の「骨太の方針」ではまず、不良債権の処理をなによりも国家の最優先課題としているが、これは処理の時期を間違えればかえって景気が悪化したり、資産価格がさらに下がったりして、不良債権を拡大しかねないことはすでに指摘した通りである。
その意味ではT氏の二年以内に最終処理を終えるというスローガンは大変過激に聞こえる。 もっとも、K内閣のなかにも意見の違いがある。
例えばY金融担当相が新たな資本投入なしでも二年で不良債権の処理はできると主張するかと思えば、一方で塩川財務相やT経済財政政策担当相は、必要なら資本投入もありうると言ったりして、主張にズレがある。 また柳沢氏自身も、最近になって七年間で半分というかなり現実的な話をし始めている。
まずはこのあたりを整理してみる必要があるだろう。 Y氏は頑として資本投入は必要ないし、最終処理をやっても、邦銀の自己資本比率が○・二%悪化するにすぎないと主張している。
しかし、問題債権が大手銀行だけで七○兆円近くあり、全体では一五○兆円あるというのに、なぜその最終処理が自己資本比率をわずかに○・二%しか下げることにならないのか。 塩川氏やT氏でなくとも不思議に思うだろう。
このミステリーを解く鍵がどこにあるかというと、実はY氏の言っている要処理の不良債権は、まず回収不能とされている主要行の第三と第四分類だけであって、国民の大半が関心を持っている第二分類や地方銀行の不良債権は入っていないというところにあるのである。 つまり、主要行の第三と第四分類だけなら一二・七兆円の規模であり、しかもここに対してはかなり前から銀行は引当金を積んでいるので、不足分を積みたてる追加的な負担はそれほど大きくない。
それなら、不足している引当分を追加して、銀行のバランスシートから切り離しても、その追加分の負担は銀行の自己資本比率を○・二%悪化させるだけで済むという計算になるのである。 その一方で、塩川氏やT氏を含む一般国民にとっての「不良債権の最終処理」とは、一五○兆円といわれる問題債権を含んでの最終処理であろう。
多くの国民は「不良債権の最終処理」と聞いた時に、この一五○兆円の問題も過去のものになった世界が到来するだろうと思っている。 しかしY氏が考えている「不良債権の最終処理」とは大手行の第三と第四分類だけの話なのであって、第二分類は不良ではなく「問題債権」なのである。
この「問題債権」と「不良債権」の定義の違いが、国民の誤解、ともすれば世界的な誤解につながっている可能性がある。 まず第一に、第二分類も含む最終処理だと思っていた人々はがっかりするだろう。

K総理が二年後に「不良債権を全部最終処理しました」と宣言しても、「ただし一五○兆円の問題債権は依然として銀行のバランスシート上に存在しています」ということになるからである。 「一五○兆円も問題債権を残しておいて何が最終処理だ」という非難の声が、当然起こってくるだろう。
とはいえ、一五○兆円の問題債権を短期間に一気に処理することはあまりにも非現実的である。 つまり、最善の状況と努力を想定しても、この問題が短期間で片づく可能性はまったくないのである。
しかし、ここが最も重要なところであるが、もしも短期間でできることが極めて限られているなら、最初から処理を急ぐ理由はないということである。 このことを理解するには、T氏がいつも参考に挙げる米国RTCの例をもう一度見てみる米国のRTCは一九八九年に、確かに短い時間で処理(売却)を実施した。
その結果、当時の米国財務次官によると、納税者の負担は、ゆっくり処理した場合に比べて少なくとも五○○億ドルは余計にかかったそうである。 時間をかけて処理すれば、政府の負担は実際にかかった一六○○億ドルではなく二○○億ドル以下で済んだだろうというのである。
それでもこのRTCの手法が今でも評価されているのは、それだけ急いでやった結果、「もう不良債権は何も残っていない」ということを当局は声を大にして言えたからで、そのことが米国経済全体に大きな安心感を与えたのである。 そしてそれができたのも、S&Lの問題が全印米資産のわずか五%であり、残りの九五%は健全であったからである。
ところが今の日本では、いくら無理して大手行の十数兆円を処理しても、何とその一○倍近くの一五○兆円の「問題債権」が依然として残るのである。 しかも大手行の十数兆円の処理だけで、T氏も自身の試算で認めているように、失業者は今より十数万人も増え、その分だけ景気は悪化する。
資産価格も当然今より下がってくるだろう。 景気が悪化し、資産価格が下がれば、不良債権はさらに増える。
つまり、それだけ無理して処理を進めても、かつてのRTCのように「これで全部片づいた!後は何も心配しなくていい」と言える状態にはまったくならないのである。 これではどんな楽観論者でも「将来の不安」が解消することはあるまい。
当時の米国と今の日本ではあまりにも状況が違いすぎるのである。 ということは、いくら急いでも「これで全部片づいた」と言えないのであれば、あえて高いコストを払って急ぐ必要もないということになる。

当時の米国でも、いくら急いでも片づく目途が立たないのであれば、あえて五○○億ドルも余計に出して処理を急ぐようなことはしなかった。 T経財相は、不良債権の早期処理が強行された場合、十数万人の失業者が新たに出るとの試算を示し、これに対して彼は、雇用保険や就労訓練などを強化してセーフティネットをつくれば対応できると主張している。
だが、マイナス成長で不況が深刻化している世界で、新しい雇用を創出するのは現実問題として大変難しいことである。


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